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東京地方裁判所 平成9年(ワ)963号 判決 1997年10月30日

原告

株式会社新城電機

右代表者代表取締役

八木眞

原告

有限会社大新商事

右代表者取締役

八木一浩

原告

八木一浩

右三名訴訟代理人弁護士

笠原俊也

被告

株式会社新大宗ビル

右代表者代表取締役

大野謙之助

被告

有限会社松山

右代表者代表取締役

松山毅

右二名訴訟代理人弁護士

髙江満

阿部一夫

千葉博

主文

一  有限会社松山は、原告株式会社新城電機に対し金一八万四八六四円、原告有限会社大新商事に対し金一六一万七六〇〇円、原告八木一浩に対し金二四万円及びこれらに対する平成八年一〇月九日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らの被告有限会社松山に対するその余の請求及び被告株式会社新大宗ビルに対する請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告らと被告株式会社新大宗ビルとの間に生じたものは原告らの負担とし、原告らと被告有限会社松山との間に生じたものはこれを五分し、その一を原告らの、その余を被告有限会社松山の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自、原告株式会社新城電機に対し金二三万一〇八〇円、原告有限会社大新商事に対し金二〇六万四〇二四円、原告八木一浩に対し金五〇万円及びこれらに対する平成八年一〇月九日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  被告株式会社新大宗ビル(以下「被告新大宗ビル」という。)は、東京都渋谷区道玄坂二丁目一〇番一二号所在の道玄坂駐車場四号館(以下「本判決駐車場」という。)を経営するもの、被告有限会社松山(以下「被告松山」という。)は、被告新大宗ビルの委託を受けて、本件駐車場を管理運営するものである。

2  原告株式会社新城電機(以下「原告新城電機」という。)の取締役兼原告有限会社大新商事(以下「原告大新商事」という。)の代表取締役である原告八木一浩(以下「原告八木」という。)は、平成八年一〇月六日午後一一時四五分ころ、原告新城電機所有の自動車(ベンツS五〇〇。登録番号川崎三三て四一〇九。以下「本件自動車」という。)を運転して本件駐車場に入庫し、もって、本件自動車を被告新大宗ビルに預けた。

なお、原告八木は、右入庫の際、被告松山の従業員の求めに応じ、同人に本件自動車の鍵を預け、出庫に必要な駐車票の半券を受領した。

3  しかるに、被告松山の従業員は、原告八木が翌七日午前零時四五分ころ本件駐車場に戻るまでの間に、原告八木とは全く面識のない無関係な者二名に対し、原告八木の了解なく、しかも、前記の半券の引換もなしに、本件自動車の鍵を渡してしまい、その結果、本件自動車は、右の者らに窃取された。

4  その後、本件自動車は滋賀県下で発見され、平成八年一〇月一二日、滋賀県警察草津署から通知を受けた原告八木がこれを引き取ったが、原告らは、以下の損害を被った。

(一) 原告新城電機

合計二三万一〇八〇円

(1) 本件自動車の修理費用等

一一万四六〇〇円

本件自動車が発見された際、そのトランク内には大型の衣類ケースやCDケース等が無理矢理押し込まれており、それがためにトランクの蓋が完全に閉まらない状態になっていた。そこで、原告新城電機は、業者にトランクの修理等を依頼し、その費用については後に弁償を受けたが、それでもトランクが完全には直らなかったため、業者に再度の修理を代金一一万四六〇〇円で依頼した。

(2) 本件自動車の引取費用

四万九八二〇円

原告新城電機は、原告八木外一名において、滋賀県下で発見された本件自動車を引き取るため、新横浜駅から新幹線を利用するなどして現地に赴き新幹線代等三万三八〇〇円を支払い、本件自動車を引き取った後、栗東インターチェンジから川崎インターチェンジまで東名高速道路を利用して代金九一五〇円を支払い、六八七〇円相当(走行距離四五八キロメートルに対して一リットル当たり八キロメートルの燃費として計算。)のガソリンを費消した。

(3) 銀行印作成費用

六万六六六〇円

原告新城電機は、窃取された本件自動車内に銀行印を置いていた。

なお、その他原告新城電機は、本件自動車の鍵を交換したり、本件自動車が発見された際に使用されたレッカーの代金を支払うなどしたが、これについては弁償を受けている。

(二) 原告大新商事

合計二〇六万四〇二四円

(1) 現金 二〇〇万円

原告八木は、原告大新商事の関連会社であり、原告八木が代表取締役を務めるジョアコスメ株式会社の取引に関して、原告新城電機が振り出し、ジョアコスメ株式会社が取引先に裏書譲渡した額面合計二三二万二六七四円、支払期日平成八年一〇月一〇日の約束手形四通の決済資金を、原告大新商事において手当するため、同月三日、原告大新商事の従業員をして、同原告の銀行口座から現金二〇〇万円を払い戻させて事務所の金庫に一時保管させ、同月五日、これを受け取ってアタッシュケースの中に入れ、右アタッシュケースを本件自動車のトランク内に置いていた。この現金二〇〇万円は、盗難後発見された本件自動車の中に残っていなかった。

(2) 携帯電話の弁償金

六万四〇二四円

原告大新商事は、レンタルを受けた携帯電話関連機器を本件自動車内に置いていた。

(三) 原告八木 五〇万円

本件においては、本件自動車自体だけでなく、これとともに、原告八木の所有または管理にかかる預金通帳、実印、銀行印、印鑑証明書、パスポート、健康保険証及び多数の得意先等の電話番号が入力された携帯電話、さらには現金などが窃取されたのであり、原告八木は、事件直後から被告松山の従業員に指示して警察官を呼び、盗難事実を申告したり、実印等が悪用された場合のことを心配して改印手続をとるなど種々の対応に追われるなどし、本件自動車が発見されるまでは仕事が手につかない程、重大な精神的苦痛を味わったものであるから、これを慰謝するには五〇万円の慰謝料が相当である。

5  被告松山は、本件駐車場の管理会社として、客から預かった自動車を安全に保管し、これを客に返還する業務上の義務を負うものであるところ、その従業員は、入庫に際して客から自動車の鍵を預かるとともに駐車票の半券を交付し、出庫に際しては客が提示する右の半券と本件駐車場に別途保管されている半券とを付き合わせて確認したうえ、客に自動車の鍵を返還する手順となっていたにもかかわらず、本件において、このような基本的な手順を踏まず、原告八木とは無関係の第三者に対し、半券の提示を受けずに鍵を返還し、本件自動車を窃取されたものであり、右の窃取について重大な過失がある。

また、被告新大宗ビルは、本件駐車場を経営し、その管理運営を被告松山に委託しているものであるから、被告松山の使用者として、使用者責任を負う。

これらの被告らの過失と原告らが被った前記損害との間には相当因果関係があるというべきであるから、被告らには、前記損害を賠償する責任がある。

6  よって、原告らは、前記不法行為についての使用者責任による損害賠償請求権に基づき、被告ら各自に対し、原告新城電機においては金二三万一〇八〇円、原告大新商事においては金二〇六万四〇二四円、原告八木においては金五〇万円及びこれらに対する不法行為の日の後である平成八年一〇月九日から支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告らの認否

1  請求原因第1項のうち、被告新大宗ビルが東京都渋谷区道玄坂二丁目一〇番一二号所在の本件駐車場を経営すること、被告松山が本件駐車場を管理運営するものであることは認め、その余は否認する。

被告新大宗ビルは、株式会社大野宗太郎商店との間で、本件駐車場を含む新大宗ビル四号館の保守管理等に関する業務委託契約を締結しており、被告松山は、原告ではなく、右の株式会社大野宗太郎商店との間で、本件駐車場の保守管理に関する業務委託契約を締結していたものである。

2  同第2項のうち、原告新城電機の取締役兼原告大新商事の代表取締役である原告八木が、平成八年一〇月七日、原告新城電機所有の本件自動車を運転して本件駐車場に入庫したこと、原告八木が、右入庫の際、被告松山の従業員の求めに応じ、同人に本件自動車の鍵を預け、出庫に必要な駐車票の半券を受領したことは認め、原告八木が本件自動車を被告新大宗ビルに預けたとの点は否認ないし争う。

なお、原告八木が本件駐車場に入庫したのは、右の日の午後一一時一八分である。

3  同第3項は認める。

4  同第4項のうち、本件自動車が滋賀県下で発見され、平成八年一〇月一二日、原告八木がこれを引き取ったこと、原告新城電機がトランクの修理、鍵の交換費用、本件自動車が発見された際に使用されたレッカーの代金などの弁償を受けていることは認め、その余は不知ないし争う。

なお、原告ら主張の本件自動車の引取費用は、二名分の新幹線グリーン車料金を含むものであるが、本件の盗難事件と相当因果関係の範囲内にあるのは、一名分であると思料される。

また、手形の決済資金を現金で所持する必然性はないし、本件の前後においてジョアコスメ株式会社ないし原告八木から原告新城電機の当座に対しては振込での入金がされているのであり、手形決済資金として現金二〇〇万円を本件自動車内に置いていたというのは経験則上疑義が残るところである。

5  同第5項の第一段(被告松山の責任原因)は認め、その余は否認ないし争う。

6  同第6項は争う。

三  抗弁

1  被告松山は、駐車場管理規程に基づいて本件自動車を預かったものであるところ、右管理規程には、自動車内外に留置された貴重品、その他の物品に関する盗難については、賠償責任を負わない旨の条項がある。

右管理規程は、本件駐車場利用者が確認できる場所に明示してあり、原告八木も、右管理規程を了解のうえで、本件自動車を預けたものである。

したがって、被告松山は、本件自動車自体の盗難にかかる責任は負うものの、車内の留置物の盗難については責を負わない。

2  原告八木は、駐車場管理者に明示しないまま車内に多額の現金を留置して被告松山に本件自動車を預けたものであり、留置物の盗難に関しては原告らの側にも過失があるというべきところ、被告らとしては、五割の過失相殺が相当と考える。

四  抗弁に対する原告らの認否

1  抗弁第1項のうち、原告八木が駐車場管理規程を了解のうえで本件自動車を預けたことは否認し、その余は不知ないし争う。

原告八木は、本件自動車を本件駐車場に入庫する際、駐車場管理規程をみていないし、被告松山から右管理規程の内容ついて説明も受けていないから、右管理規程による拘束を受ける理由がないし、損害賠償請求について車内の留置物を自動車自体と区別する合理的な理由はなく、一般的にみても、右の管理規程は法的拘束力をもたないというべきである。

2  同第2項は否認ないし争う。自動車自体が高価品である以上、車内の留置物と自動車自体とを区別する理由はない。

理由

一  請求原因第1項のうち、被告新大宗ビルが東京都渋谷区道玄坂二丁目一〇番一二号所在の本件駐車場を経営すること、被告松山が本件駐車場を管理運営するものであること、第2項のうち、原告新城電機の取締役兼原告大新商事の代表取締役である原告八木が、平成八年一〇月七日、原告新城電機所有の本件自動車を運転して本件駐車場に入庫したこと、原告八木が、右入庫の際、被告松山の従業員の求めに応じ、同人に本件自動車の鍵を預け、出庫に必要な駐車票の半券を受領したこと、第3項、第4項のうち、本件自動車が滋賀県下で発見され、同月一二日、原告八木がこれを引き取ったこと、原告新城電機がトランクの修理、鍵の交換費用、本件自動車が発見された際に使用されたレッカーの代金などの弁償を受けていること、第5項第一段は当事者間に争いがない。

二  そこで、本件の盗難事件によって原告らに生じた損害(請求原因第4項)について検討する。

1  原告新城電機

合計二三万一〇八〇円

(一)  本件自動車の修理費用等

一一万四六〇〇円

甲一の1、二、三及び原告大新商事代表者兼原告八木本人(以下「原告八木本人の供述」という。)によれば、窃盗犯人らが本件自動車のトランク内に大型の衣類ケースやCDケース等を無理矢理押し込んだため、トランクの蓋が完全に閉まらない状態となり、原告新城電機は、二度にわたって業者にトランクの修理等を依頼したが、その代金のうち一一万四六〇〇円については、未だ弁償を受けていないものと認められる。

(二)  本件自動車の引取費用

四万九八二〇円

甲五、原告八木本人の供述及び弁論の全趣旨によれば、原告新城電機は、原告八木外一名において、滋賀県下で発見された本件自動車を引き取るため、新横浜駅から新幹線を利用するなどして現地に赴き新幹線代等三万三八〇〇円を支払い、本件自動車を引き取った後、栗東インターチェンジから川崎インターチェンジまで東名高速道路を利用して代金九一五〇円を支払い、六八七〇円相当のガソリンを費消したものと認められる。

右の新幹線代等について、被告らは、本件の盗難事件と相当因果関係の範囲内にあるのは一名分に限られると主張するが、遠隔地で発見された本件自動車を運転して持ち帰る要員として二名というのは合理性があり、これがグリーン車を利用したからといって、本件盗難事件との相当因果関係を否定することはできない。

(三)  銀行印作成費用

六万六六六〇円

甲六及び原告八木本人の供述によれば、原告新城電機は、窃取された本件自動車内に銀行印を置いていたため、これを作り直し、代金六万六六六〇円を支払ったものと認められる。

2  原告大新商事

合計二〇二万二〇〇〇円

(一)  現金 二〇〇万円

原告八木本人は、本件自動車内における現金二〇〇万円の存在についての原告ら主張に沿う供述をなす。

これに対し、被告らは、手形の決済資金を現金で所持する必然性はないし、本件の前後においてジョアコスメ株式会社ないし原告八木から原告新城電機の当座に対しては振込での入金がされているのであり、手形決済資金として現金二〇〇万円を本件自動車内に置いていたというのは経験則上疑義が残ると主張するが、会社の経営者が手形の決済を含めておよそ事業の資金となるべき現金を数日間にわたって所持するというのは、必ずしも不自然、不合理なことではない。

しかるところ、甲八の1、2、九の1ないし4、一〇の1、4、5によれば、本件盗難事件の以前に原告新城電機がジョアコスメ株式会社宛に額面合計二三二万二六七四円、支払期日平成八年一〇月一〇日とする約束手形四通を振り出しており、同月三日には原告大新商事の当座預金口座から現金二〇〇万円が引き出されていることが認められ、原告八木本人の右供述には一部裏付けがあるということができるし、被告らが本件自動車内における現金の不存在を立証趣旨として申請し採用した証人武藤俊の証言によれば、かえって、原告八木は、本件盗難事件発覚の直後に、本件駐車場において、現場に居合わせた被告松山の従業員(アルバイト)である武藤俊に対して、本件自動車内に現金二〇〇万円を置いていた旨を述べたと認められるのであり、このような事件直後の咄嗟の言動に照らしても、原告八木本人の右供述は十分に信用でき、これを否定するに足りる証拠はない。

(二)  携帯電話の弁償金

二万二〇〇〇円

甲七の1ないし3、原告八木本人によれば、原告大新商事は、携帯電話及び自動車用固定アンテナ等携帯電話関連機器のレンタルを受けてこれを本件自動車に搭載していたが、本件自動車が窃取されたため、直ちにレンタル会社に対して右機器の弁償金二万二〇〇〇円を支払ったことが認められる。

なお、右支払に関するレンタル会社の領収書(甲七号証の一)には、弁償金として六万四〇二四円を領収した旨の記載があるが、甲七の2によれば、右金額のうち四万二〇二四円は、携帯電話一台及びその附属品一式を新たに購入した代金であると窺われるのであり、原告ら主張の弁償金のうち二万二〇〇〇円を超える部分についてはこれを認めることができない。

3  原告八木 金三〇万円

原告八木の供述及び弁論の全趣旨によれば、本件においては、本件自動車自体だけでなく、これとともに、原告八木の所有または管理にかかる預金通帳、実印、銀行印、印鑑証明書、パスポート、健康保険証及び多数の得意先等の電話番号が入力された携帯電話、さらには現金などが窃取され、原告八木は、本件盗難事件の直接の被害者として、事件直後から被告松山の従業員に指示して警察官を呼び、盗難事実を申告したり、実印等が悪用された場合のことを心配して改印手続をとるなど種々の対応に追われるなどし、仕事が手につかない程の精神的苦痛を負ったことが認められるところ、これを金銭的に評価すれば三〇万円に相当するものと思料する。

三  次に、被告らの責任原因(請求原因第5項)について検討するに、まず、被告松山に本件盗難事件について重大な過失があることについては前記のとおり当事者間に争いがない。

なお、駐車票の半券を提示しない者に本件自動車の鍵を渡し、よって本件自動車が窃取されるに至らしめたのは、被告松山の従業員であるから、被告松山は、このような従業員の過失行為によって原告らに生じた損害について、民法七一五条の使用者責任による賠償義務を負うものというべきであり、原告らの主張も右と同旨をいうものと解するのが相当である。

いずれにしても、被告松山の従業員の右の行為と前記認定の原告らの損害との間には相当因果関係を認めることができる。

しかるところ、原告らは、被告新大宗ビルが本件駐車場の管理運営を被告松山に委託している(請求原因第1項)としたうえで、被告新大宗ビルが被告松山の使用者として使用者責任を負う旨を主張するが、被告ら相互間に本件駐車場の管理運営についての直接の委託契約関係のあることを窺わせる証拠の提出がないのはともかくとして、右のとおり、原告らに対して不法の行為に及んだ直接の加害者は法人たる被告松山ではなく、自然人たる被告松山の従業員であるというべきところ、右の従業員と被告新大宗ビルとの間の実質的な使用従属の関係など、被告松山の従業員の行為について被告新大宗ビルに責任を負わせるのを相当とする事情があるとする主張、立証は一切ない。

よって、その余の点につき判断するまでもなく、原告らの被告新大宗ビルに対する請求は理由がない。

四  続いて駐車場規程による免責(抗弁第1項)について検討するに、乙一、二の1、2によれば、被告松山主張の内容の駐車場管理規程の掲示板が本件駐車場の受付の外壁に貼られていることが認められるが、これを原告八木が視認したことを認めるに足りる証拠はない。

ところで、一般に、本件駐車場のような路外駐車場において、駐車場管理者は駐車された自動車の保管について善良な管理者の注意を払うべきところ(駐車場法一六条参照)、駐車場管理者の管理下におかれるのは自動車自体であり、駐車場管理者は必ずしも自動車内外の物品について直接的に保管の義務を負うものではないから、自動車が当該駐車場に駐車されたまま、その内外の物品がいわゆる車上荒らしや置き引き等第三者の犯罪行為により毀損、滅失したとしても、そのことにより直ちに駐車場管理者に右物品の毀損、滅失についての損害賠償責任は生じないが、駐車された自動車が駐車場管理者の過失によって第三者に窃取された場合、駐車場管理者は、自動車自体の毀損、滅失についてはもとより、およそ右の過失行為と相当因果関係のある駐車場利用者の損害について賠償の義務を負うと解するのが相当である。

しかるところ、本件駐車場の管理規程の趣旨が、右の一般論と異なり、過失行為を相当因果関係がある損害であっても、自動車内に置かれた物品に関しては被害松山が一切賠償責任を負わないとするものであり、そのような内容で原告八木と被告松山との間で駐車場の供用契約が成立したとする事情を認めるに足りる証拠はないから、右の駐車場管理規程を原告八木が了解していたかどうかを判断するまでもなく、被告松山の抗弁第1項は採用することができない。

五  過失相殺(抗弁第2項)について検討するに、原告大新商事の代表取締役で原告新城電機の取締役も務める原告八木は、多額の現金や実印など通常自己の手許に置くべき物品を車内に残したまま本件自動車を被告駐車場に駐車したものであり、原告らの損害が本件自動車自体の毀損、滅失のみならず、車内の物品の毀損、滅失に関するものにまで拡大するについては、原告ら側に過失があったと認められるのであり、自動車が高価品であるから現金等を車内に残しても過失がないとする原告らの主張は採用することができない。

もっとも、駐車場利用者から預かった自動車の鍵を、駐車票の半券を提示した者に返還するという本件駐車場の基本的な業務手順を無視した被告松山の側の過失はより重大であり、その他本件盗難事件の経緯等諸般の事情に鑑みると、二割の過失相殺を認めるのが相当であると思料する。

これによると、被告松山が賠償すべき額は、原告新城電機に対しては一八万四八六四円、原告大新商事に対しては一六一万七六〇〇円、原告八木に対しては二四万円と算定される。

六  よって、原告らの請求は、被告松山に対し、原告新城電機においては一八万四八六四円、原告大新商事においては一六一万七六〇〇円、原告八木においては二四万円及びこれらに対する不法行為の日の後である平成八年一〇月九日から各支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行宣言について同法一九六条一項をそれぞれ適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官石橋俊一)

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